世界的に権威のある医学雑誌 The Lancetに
研究成果を発表しました
2015.11.09
平成19年度より皆様にご協力をいただき、2回目検診およびアンケートでその後のご健康状態をお知らせいただいておりましたJ-STARTですが、このたび研究の一つ目の目的である「マンモグラフィ検査に超音波検査を加えることによる、マンモ群と超音波上乗せ群との感度・特異度、発見率の比較」結果を公表しました。参加者の皆様に、この論文がどのような内容であるか、またこれからどんなことが必要なのか、ご説明させていただきます。
まず、感度・特異度、発見率という言葉の説明をさせていただきます。感度は「対象集団から発見された乳がんの総数の中で、検診で所見を指摘されて発見された乳がんの割合」、特異度は「乳がんではない方のうち、正しく精密検査不要とされた方の割合」です。それぞれ数字が大きければ大きいほど、がんをがん、がんではないものをがんではない、と正しく判断できたかどうかを表す数字です。発見率とは、各群の検診を受けた方の総数のなかからがんがどのくらい見つかったかという割合で、数字が大きければより多くのがんを見つけることができる方法、ということになります。
今回の論文では、2007年7月から2011年の3月までの間に日本の23県42の研究参加団体から、超音波上乗せ群として36,859人、マンモグラフィ群に36,139人、計72,998人のデータを解析としたことを報告しました。世界からは、このような大規模なランダム化比較試験を、健康な女性たちのご協力を得て実施した世界でもまれに見る研究であることが驚きをもって伝えられました。皆様のご協力を得られたことも一つの大きな実績となりました。
論文の主題となる感度は超音波上乗せ群が91.1%、マンモグラフィ群が77.0%となり、上乗せ群が顕著に高くなっています。しかし、特異度は上乗せ群で87.7%、マンモグラフィ群で91.4%と上乗せ群の正確さは低くなっていました。がん発見率は、上乗せ群が0.5%・184人に対しマンモグラフィ群が0.3%・117人となり、検診で所見を指摘されて発見されたがんのうちステージ0やⅠといった初期のものが上乗せ群では71.3%・144人、マンモグラフィ群で52.0%・79人という結果となりました。
これはどういうことかというと、マンモグラフィに超音波検査を上乗せすることでがんは見つかりやすくなるものの、本当はがんではないのに精密検査を受けるリスクはマンモグラフィだけの場合よりも増える、ということです。がんがたくさん見つかる検診が良い検診だと単純に考えがちですが、本来は不要である検査の増加や、検診コストの上昇などの不利益も正しく評価して、そのバランスを検証することが重要なのです。従って現段階では簡単に乳がん検診としてマンモグラフィに超音波を上乗せしよう!ということはできません。J-START研究の目的は、超音波上乗せ群が優れていることを示すことではなく、受診される方にとっての利益と不利益を正しく評価し、その結果を明らかにしてゆくことです。今回の論文の成果はまず第1歩です。超音波検査の上乗せによってより多くの早期がんが発見され、その結果として乳がんで亡くなる方の数を減らすことができるのかを検証するためには、引き続き長い調査が必要となります。皆様からいただいた研究データをより正確なものにするため、引き続き皆様からの情報提供をいただき、未来の女性たちにより良い検診方法を提示できるように研究をつなげていきたいと考えております。
参加者の皆様、ご協力誠にありがとうございます。今後ともアンケート等へのご協力をどうぞよろしくお願いいたします。