ランダム化の意義について
臨床試験に対する統計学の最大の貢献はランダム化にあるといわれている。臨床試験におけるランダム化とは、治療法選択において恣意的な医師の選択あるいは患者希望を避け、複数の治療介入のいずれかに確率的な要素を伴って患者を割り付ける操作である。これによって、アウトカムに影響する患者背景や病態(がんの場合ならがんの症状)が治療群間で偏ることから生ずるバイアスを減らし、あるいはバイアスを平均的に除去し、正確な治療法間の比較ができるとされる。
しかし、その数学的な意味が十分理解されているとは限らず、またその普及も必ずしも順調ではなかった。
ランダム化が初めて提唱されたのは、1930年代にイギリスのR.A.Fisherが、新種や肥料を評価する農事試験を対象として創案した「実験計画法」においてである。この実験計画法は1947年に英国Medical Research Council によって開始された結核患者に対するストレプトマイシンの評価に採用され、その成功を通じ、臨床試験においても方法論としての有効性が確立されたとされている。
しかし、ランダム化試験の重要性を訴えるわれわれ統計家に対して、日本の臨床家から投げかけられた言葉は以下のようであった。
80年代 「がんでランダム化試験ができるか」
90年代 「外科でランダム化試験ができるか」
今日のわが国では、胃癌における脾摘の有無、大腸癌における開腹・内視鏡手術の比較など、がんの分野では外科手術にいたるまでランダム化試験が普及しエビデンス発信に貢献を果たしている。隔世の感がある。現在の臨床家の疑問は
00年代 「しばしば小規模で患者を限定したランダム化試験の結果が、あるいは海外のランダム化試験の成績が、目の前の患者に適用できるか」
という一般可能性の疑問に進化をとげている。実は欧米でもランダム化試験の定着はそれほど古いものではない。New England Journal of Medicine に靜々たる統計家が連名で発表した特別レポートで(歴史対照の活用やCox回帰などの背景因子調整の統計解析手法が現れても)ランダム化はもっとも信頼できる評価法として存続する、という宣言がなされているほどである。1976年、それほど古いことではない。
Byar DP,Simon RM,Friedewald WT,Schlesselman JJ, Demets DL, Ellenberg JH, Gail MH, Ware JH.
Randomized clinical trials. Perspectives on some recent ideas. N Engl J Med. 1976;295: 74-80.
ランダム化の驚くべき特長は、(鬼面人を威すようであるが)「実際は治療を行わない治療効果も推定できる」という点である。また、ランダム化によって初めて検定のp値が計算可能になる、という数学的構造はあまりよく理解されていないように思われる。応用統計においてp値を根拠づけるのは、実は母集団からの無作為抽出とランダム化のみである。これらの手法が適用できない観察・疫学研究においては、p値の正しさは100%は保障されない!
上記のランダム化による推定の正確性とp値の関連について、図にまとめてみた。治療効果が患者によって異なることも考慮していること、また通常の統計学で仮定される「確立分布とそこからの無作為定理」はまったく想定されていないことに留意すべきである。p値の計算には、「中心極限定理」を根拠とした正規分分布近似か、実際に患者割付けを発生させ可能な割付けパターンを発生させる「並べ替え分布」を用いるかの二つの方法がある。つまり、治療効果も差がないという帰無仮説のもとでは治療効果の差はゼロを中心に分布するので、現実に得られたデータ以上に極端な治療効果が観察される割付けパターンの数を(症例数が大きくなると全部並べ替えることは時間的に不可能なので、数万回あるいは10万回割付けパターンをコンピュータで発生させ)数え上げて相対頻度を計算するのである。計算機の発展が、この並べ替え分布に基づくp値計算を可能とした。
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クラスターランダム化
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クラスター非ランダム化
クラスター非ランダム化
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